おうい、佐助。

 待たせたな。悪かった、悪かった。思いのほか遅くなってしまったな。しかし、お前ほどではあるまい? 幼い頃から、お前は俺を待たせっぱなしだったのだから。
 詫びをすると申すなら、団子が食いたいぞ。なんだ、作ってくれぬのか。

 昔から、お前の作る団子が好きだった。仕事帰りに買ってきてくれるやつもうまかったが、お前の団子には敵わん。味もそうだが、お前が俺のために作ってくれると思うと、嬉しくて仕方がなかったのだ。
 なに、団子作りも、俺が命じれば立派な忍びの仕事だ。真田に使える忍びが、それくらいできずになんとする。

 本当にお前は、何でもできたな。戦場に出れば疾風のごとき速さで駆け、鬼神のごとき働きぶり。団子を作らせれば天下一だ。これぞ日本一の忍びと、誇らしく思っていた。
 俺が幼いころから、大人に交じって俺にできぬ仕事をしていただろう。あの頃は、ずいぶんとお前がうらやましかった。大人になっても、お前のようにはなれなかったな。
 俺が城代をしていたときも、お前はしばしば御館様に会うていたらしいではないか。
 佐助ばかりずるいぞ。

 覚えておるか、月見酒に誘うた晩のこと。酒臭くちゃ忍べないだのなんだの言いながら、結局付き合ってくれるのが嬉しかった。実を言うとな、俺はお前を忍ばせる気などなかったのだ。
 そうだろう、あんなにも鮮やかに大手裏剣を操るお前を、闇で覆ってしまうなどもったいないではないか。

 お前の戦う姿が好きだ。変幻自在の戦いは、まるで見事な舞を見ているようだ。胸の奥が熱く滾ってくるのだ。
 独眼竜と対した時とは違う。政宗殿を前にしたときは正面からぶつかりたいと思うのだが、お前のは、ずっと見ていたいと思う。


 そうか、もう、お前が刃を握る必要はないのだったな。


 俺は戦しか能がなかったから、唯一つできることに没頭するしかなかった。
 俺はむしろ、お前の方がまっすぐに生きているように見えていた。戦がなくなったら、俺はきっとお前にぶら下がってしか生きていけぬ。進むべき道を見失っても、お前は自分でいくつも道を見つけてくるだろう。
 あの時、立ち止まってしまった俺に道を示してくれたのはお前だ。甘味道中など、なかなか魅力的だったぞ。結局は戦の道に走ってしまったわけだが。
 それでもお前はついてきてくれた。

 佐助、お前には本当に感謝している。俺が顧みずに進めたのは、いつでもお前がそこにおると思うておればこそ。お前ならば必ずや成し遂げてくれると、信じておったのだ。お前はいつも期待にこたえてくれた。
 佐助がいたからこそ、俺は思うままに生きられたのだ。


 だからな、二槍すら失うて、この手に何も残らずとも、俺は後悔などせぬよ。

 どんなものであれ、お前のおかげで成せた、俺の人生なのだから。




 品書

サイト開設に際して、大急ぎで書き上げた物です。初っ端から薄暗い・まとまりがない・意味がわからないの嫌な3拍子揃えてしまい申し訳ない。
しかしこの短い話の中に、我が家の全てが凝縮されているような気がします。旦那しか見えていない佐助と、過去を引きずり続ける慶次と、己の望みと国主の立場の間で悩む殿と、それをただ支える小十、ひたすら真っ直ぐな幸村。そして世界の中心にはいつも幸村。
こんな彼らが今後増えていくと思われます。