全くあんたって人は、とことん無茶をやらかしてくれるよ。俺はちゃんと他の道も用意したからね。それなのに一番しんどい道を突き進むんだから、ホントにもう馬鹿じゃないの。何度だって言ってやるよ。旦那のばかやろう。

 昔からそうだった。俺の警告なんか丸無視して、敵陣に突っ込むわ、大将と殴り合って気絶するわ、団子食いすぎるわ。
 旦那、実は団子全然味わってなかったでしょ。わざわざ遠くまで買いに行かせといて、持って帰ってみれば一口で完食しちまうんだもの。あれじゃあ味がわかるわけないって。そう思いながら買い集めてた俺もどうかしてたんだろうけどね。

 本当、どうかしてるよ。知ってるかい、出会ったばかりの頃、俺旦那のこと大嫌いだったんだよ。それなのに、気がついたらいろいろ世話を焼くようになっていた。旦那があんまりにも不器用で危なっかしかったから、つい手を出しちまう。
 危なっかしいのは今もだよ、今も。むしろ性質悪くなってるんじゃないの、最近のは俺様も手に余る。
 本意じゃなかったはずなのに、旦那の面倒を見るのがいつの間にか板についてしまって、その居場所を離れられなくなっちまった。あんな子守まがいのこと、忍びの仕事じゃねえってのにさ。旦那の傍は、居心地がよかった。

 初陣のこと、覚えてるかい。怯えて下がってるかと思ったら、とんでもない。猪突猛進、て言うけれど、猪どころじゃない、まさに鬼神のごとき戦ぶりだった。
 その時だよ、俺が初めて心底から旦那に惹かれたのは。こりゃ、絶対に大物になると思った。かと思えば祝い酒を飲んでぶっ倒れるし、この人は四六時中俺が面倒見なきゃ駄目なのかって呆れもしたけれど。



 酒、飲めるようになったね。甘味をねだる回数も減った。屈託なく大声をあげて笑うことも、以前に比べてずっと少なくなった。
 だけど、まっすぐなその瞳の色は昔も今も変わらない。



 旦那の炎が好き。炎を纏って戦う旦那は、それこそ大げさな世辞なんかじゃなく、人とは思えないくらいに神々しく、まるで本物の戦神だ。
 一緒に戦場に出るたびに、旦那の炎を見るたびに、どんどん魅せられていく。
 どんな敵にも真正面からぶつかっていく。生き方そのままに。

 きれいだ、と思う。武士の誇りを映したような、その生き方。前だけを見据えて、真っ直ぐに生き抜く姿勢。なんて愚直で馬鹿な生き方だ、と、思いながらいつしか焦がれていた。
 愚かとしか思えないようなことでも、ためらいなくやってのけてくれる。けどそうやって進んでいる時が一番旦那らしいから、止めようったって無理。

 旦那に会えてよかった。旦那に仕えられて、よかった。
 たとえ死地だろうと、旦那が一番輝いてる場所で、旦那と背中合わせに戦っている時が俺の一番の誇りだ。
 そりゃ、もう勘弁してよって思った状況も多い。止めときゃよかった、と後悔した数を数えてたらきりがない。でもね、これだけは俺様、自信を持って断言できる。
 旦那についてきたことを後悔したことは、一回だってないよ。

 槍を握って、華々しく戦場を駆け抜けてくれよ。旦那は日本一の兵、だろ?


 それじゃあ、また、ね。




  品書 


初っ端から異色です。そして薄暗いです。状況はお好みで。