*筆頭が女体化+幼児化
佐幸というよりさなだて、むしろ幸+ややこが主
でも根底は佐幸
政宗から突然電話がかかってきたのは、梅雨の晴れ間の夕方だった。普段は来客も電話も佐助に任せきりの幸村が珍しく受話器を取ったのは、その佐助が丁度夕餉の買い物に出払っていたからだ。
「Hey 真田! 元気か?」
政宗とは高校時代の同級生。卒業以来とんと疎遠になっていたのだが、電話口から聞こえてきた変わらぬ独特の口調と相変わらずのハイテンションで、数年の空白は一瞬にして溶け去っていた。男勝りのさばさばした性格の彼女とは、おなごが苦手な幸村でも同性と付き合う感覚で話すことができ、それなりに近しい仲だった。
昔からやることなすこととにかく豪快で、破天荒なのである。
とある企業の跡取りだった政宗は、大学を出てからはすぐに見合い結婚させられたというが、甲斐性のない亭主を蹴り出し、社長は代々男が務めるものという古びた慣習をぶち壊して、今では自ら社長を務め果たしているというのだから驚きだ。
そんなことだから、思い出話に花を咲かせるような性格ではない。簡単に近況を報告し終えると、政宗はすぐに本題を切り出した。
子供を預かってほしいという。
若くして会社をまとめあげる立場にいる彼女は、多忙な日々を送っている。明日も取引に海外へ飛ぶと言う。商談に子どもを連れてゆくわけにもいかぬし、ベビーシッターを雇うのも金がかかる。何よりも、構ってもやれないのに連れまわすのが可哀想だという。それくらいなら、気心の知れた相手に預けていく方が安心だ。
学生時代は見せなかった柔らかい親の声で、困っている様子を放ってはおけない。幸村は深く考えることもせず、二つ返事で快諾した。
「いかさま、承知した。お預かりしよう」
「Really? Thanks! 助かったぜ」
声を弾ませる旧友に頬を緩ませる。じゃあ、明日連れていくからと言われて、頷いた。
こちらは家でできる仕事だし、佐助もいる。それに、子供など放っておけば勝手に遊んでいるものだろう。食事と玩具を与えて、外に出ないようにだけ気を付けていれば、何も苦労することはあるまい。そんな甘い考えで引き受けてしまったのだが。
このとき簡単に頷いたことを、後日幸村は壮絶に後悔することになる。
翌日、約束通り訪ねてきた政宗は佐助に出迎えられ、遅れて奥から顔を出した幸村に、Helloと男前に手を上げた。
「久しいな! 伊達はちっとも変わらぬ」
「お前はますます時代を逆行してんな。ま、元気そうで何よりだ」
幸村の普段着の着物姿を見て笑った政宗は次に、急に悪ぃなと謝った。その表情は、研ぎ澄ました刃を隠しもしなかった高校時代に比べいくらか丸くなったようにも見える。ブラックのパンツスーツをびしりと着こなし大きな鞄を抱えた姿が、本当にこれからすぐに発つのだといっていた。
しかし、件の子どもの姿が見えない。幸村は内心首を傾げる。子どもを連れてきたなら、訪ねてきた瞬間から喧しくなるのを覚悟していたのだが。
「さっそくだが、あまり時間がないんでな」
そう言って荷物の中にかがみこんだ政宗が、小さな布の塊のようなものを抱きあげるのが見えた。それを大事そうに腕に抱いて戻ってくる。幸村の思い浮かべる「子ども」の姿はどこにもない。
遠目には布の塊にしか見えなかったそれに、何か人形のような、しかしプラスチックのそれにしてはやけに柔らかそうなものが包まれているのが近付くにつれ分かり、幸村は己の頬が引きつるのを感じた。
「だ、伊達。子供、とは……」
「Yes. 梵天ってんだ。今日から1週間、面倒よろしくな」
自慢げに言って、腕に抱いたそれのなめらかな柔い頬をつつく政宗に、くらりと目の前が傾ぐ気がした。横から覗きこんだ佐助は、呑気に顔をほころばせている。
「へぇ、可愛いじゃないの。何か月?」
「8か月。もうお座りもはいはいもできるんだぜ?」
「それじゃあ、目が離せないね。で、旦那、これから1週間って……」
どういうこと? 首を傾げる同居人に答える余裕もなく、幸村は悲鳴のような声を上げた。
「あ、赤子ではないか! 乳呑み児など、預かれぬ!」
子供というから、三つか四つの幼児を思い浮かべていたのだ。こんな、片時も目を離せぬような赤子を預かるなど、聞いていない。が、幸村の動揺を余所に、政宗はひらりと手を振った。
「心配すんな。離乳食はまだだから必要ないし、粉ミルクもオムツも、一週間十分過ごせるだけ用意してあるから」
言って背後を示すとその通り、可愛らしいパステル色の大きな缶と紙オムツが山と積まれている。
これで問題なかろう、と政宗が赤子を差し出すと、幸村はずざざっとものすごい勢いで後退した。両腕が完全に宙に浮いている。
「真田?」
「う、受け取れぬ! こ、こ、壊してしまったらなんとする!」
「アァ? そう簡単に壊れやしねえよ、赤子を何だと思ってんだ」
おら、と細い腕で赤子を突き出す政宗、顔を引き攣らせて本気で逃げる幸村。
靴を脱ぐ時間がもったいないのか、玄関先から上がってくることはない。政宗は完全に腰が引けている幸村に見切りをつけたか、おもむろに傍観していた佐助に赤子を押し付けた。あまりに唐突で自然な動作に佐助も思わず受け取ってしまい、腕の中のやわらかな命に慌てふためいて悲鳴を上げた。
「え? ちょ、ちょっと!」
「男なら約束は守れよな。次の週末に迎えに来るぜ」
See you next week!
一方的に言うだけ言ってさっさと踵を返す政宗に追いすがるも、身軽さは政宗に分がある。伸ばした指先で戸が音を立てて閉まり、大きな粉ミルクの缶と大量の紙オムツの山と一緒に取り残されたのだった。
「旦那ァ、この子どうすんのさ」
乳呑み児を抱えた佐助に詰め寄られ、幸村は途方に暮れるしかなかった。
品書 ≫
「あなたの子よ!」と赤子を突きつけられて詰め寄られるプレイボーイ旦那にしか見えなくなってきた病気(爆)
また訳の分からんパラレルですが、よろしければお付き合いくださいな。